海鳴の記

お祭り見物が趣味のディレッタント。佐渡民謡の担い手です。

翻訳史を知る ~船山徹『仏典はどう漢訳されたのか』~

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船山徹、2013『仏典はどう漢訳されたのか ―スートラが経典になるとき』岩波書店

年始にTwitterで少し話題になっていたこの本。

ガジョレ on Twitter: "『仏典はどうやって漢訳されたのか』を読んでいますが、本文の趣旨よりもここの鳩摩羅什が「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込められたエピソードが気になってしょうがない。… "

面白そうだったので図書館で借りて読んでみた。うむ、やっぱり面白い。本書の視点は仏教における漢訳の位置付けと、翻訳史における仏典漢訳の持つ特徴。だが初学者にも分かりやすく述べられているので、仏典漢訳のみならず東アジアの仏教史を学びたい人全般にこの本を薦めることができる。

自分は歴史の観点から、訳経の流れを説明した第2章が面白かったと感じた。訳経の流れは第3章で詳しく述べられているが、こちらも「そういう流れで訳してたのね!」と実態を知ることができて知的刺激に富む。ちなみに、訳は複数の人が役割分担をしてフローチャート方式で進めていくのだが、その時の監督者(辞書編纂で言うところの編者に当たるような人)が訳者とされる。例えば法華経を訳したのは鳩摩羅什だが、彼が梵語から漢語にすべてひとりで訳したわけではない。

その他は偽経の話や漢語における誤解、また翻訳の問題を特に詳しく掘り下げているので、飽きずに楽しめる。

とにかく読みやすいので皆さんもぜひどうぞ。