海鳴の記

お祭り見物が趣味のディレッタント。佐渡民謡の担い手です。

「宵の舞は江戸時代からあった」は嘘

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UXこと新潟テレビ21YouTubeを見ていて驚きました。宵の舞は江戸時代に相川金山と奉行所を結ぶ通りで相川音頭を踊りあかした民謡流しを再現????????

こりゃまた根拠のないウソを堂々と言ったものだと思いました。宵の舞というのはもともと富山のおわら風の盆を相川町の人がみんなでバスに乗って見学に行き、これを相川音頭でできないかと言って約20年前から始めたイベントであり、江戸時代にこのような踊り流しがあったというのは明確に嘘です。このぼんぼりもおわらを模したものであることは明白です。

そのような史料もありませんし、絵巻物に書かれている盆踊りの形式は専ら輪踊りが主流で、流し形式と思われるものは俄狂言などがありますが、踊りを踊ってこういう隊列を組んで流す形式には程遠く、したがって江戸時代からあったというのは創作です。陣屋=奉行所の前でお盆に輪踊りが行われたというのは記録にありますが、流し踊りはないです。この動画では明確にストリートで流し踊りがあったかのような紹介をしています。

作り話だから再現というのも嘘です。相川金山と奉行所を結ぶ通りでこのような踊りがあったという話自体が嘘だし、再現というのも嘘。テレビ局が独自にこのような話をするとはちょっと考えられませんので、取材されたときにこのイベントの主催者がホラを吹いたと考えるのが妥当かなと思いました。

私は相川で生まれ育ち、相川音頭を唄う人間として、このような創作、歴史の捏造行為に真っ向から抗議の意を示します。宵の舞、たしかに観光客が訪れるイベントです。でもだからといって嘘をついて箔付けを行うのはお客さんに対する詐欺行為であり、歴史に対する冒とくです。

相川の歴史や文化に対して、このイベントの主催者が何ら敬意を持っていないのではないかと思いました。過去の文化や古いものを敬い、大事にする気がないから、なかったことを金儲けのために捏造できてしまうのではないでしょうか、歴史を大切にする人がそのような行為をするとは思えないのですが。

佐渡金山はご存知の通り歴史を巡り世界遺産を目指す運動の中で大いに揺れています。住民の歴史との向き合い方は核心的に重要なものとなるでしょう。しかしながら、あちこちのHPで紹介されるこのイベントが虚飾虚構で覆われているとしたら、そのような行為を許容する町に世界遺産の称号は相応しいと言えるでしょうか。

私は言えないと思います。商売の為なら、金儲けのためなら、経済の為なら、捏造してもいいんだ、ちょっとくらい嘘を交えてもいいんだ、そんなはずありません。この主催者はおそらく軽い気持ちで取材者にこの作り話を語ったのでしょうが、その場の盛り上がりや勢いや雰囲気でありもしない話を作り上げてしまう、その精神が私にとってはとても恐ろしいものに思えます。

佐渡相川、いったいどうしてこのような町になってしまったのでしょう。12巻に及ぶ相川町史、歴史と文化の薫る町、先の時代の人たちはみんな立派な人たちばかりでしたよ。民間の歴史研究も盛んでした。相川音頭は盆踊りの文化を守ろうとする人たちにより受け継がれ、その団体は立浪会としてのちに佐渡おけさを全国的なものにしていきます。絵巻に描かれているような、民衆の盆踊りの精神、相川音頭の精神もそのような人たちや郷土史研究家によってかろうじて受け継がれていたように思うのですが。今やこの素晴らしい唄が嘘八百の観光客目当てのイベントに好き勝手使われてしまい残念です。この町に未来はないなという想いがまた強くなりました。もはや怒りというより、さびれた観光地の末路を見せつけられている気がしてとても悲しくなりました。